ステージマジックという本
マジックの話し北見マキさんがお亡くなりになりました。
僕はマジックをやり始めた当初、ステージマジックへの憧れが強くて、シカゴの四つ玉、ゾンビボール、カード、ケーン、シルク、色々とやりたいことがあった。
燕尾服を着こなし、綺麗な女性を助手に従え、華麗にハトを出しカードを出し花吹雪が舞うステージは最高にカッコいい。
カッコいいから、当然やってみたいのだ。
でも誰も教えてくれない。
今でこそ色々なマジック専門書が発売されているし、ネットで動画も見放題だけれど、それでもやはりクロースアップマジックが中心だと思う。ステージマジックをしっかり解説している専門書はとても少ない。
今でもそうなのだから、僕がステージマジックをやりたい盛りであった90年代なんて、情報の掴みようが何にもなかった。本当に無かったのだ。
覚えている限りでは二川滋夫先生の「シルクマジック大事典」とテンヨーの「ターベルコース」であったと思う。
どちらも複数巻のシリーズでとても高価な本だったため、小学生には手が届かない。だからステージマジックをTVで観たら、それをビデオに録画して何とか真似していたのだ。
そんな当時、本屋で北見マキさんの奇術入門シリーズ「ステージマジック」を見つけた時は最高に嬉しかった。
ダンシング・ケーンやハト出しまで解説されているこの本は、他の入門シリーズと比べて少し違った部分がある。
まず北見マキさんご本人のステージ演技写真が随所に使われていて、この写真だけでもプロのカッコよさや華やかさが伝わってくる。こんな風にステージに立ってみたい、と思えてくる。
そしてこの本にはマジックの解説だけでなく、最初と最後にステージマジックを演じる際の心構えや決まりごと、プロを目指す人に対する忠告がしっかり書かれている。
大変ためになる内容なので、この本の最初と最後だけでも読んでもらいたい内容なのです。文章ひとつひとつがとても参考になり、超一流のプロ意識がいかに高いのか、どれほど厳しくマジックを演じているのか伝わってくるのです。
あとがきに書かれている文章を少し引用させて頂きます。
「 もし、あなたがまかりまちがってプロになろうなんて気を起した場合には、ただ、ひたすら、たくさんの奇術を覚え練習することを、すすめる。
それを数年続けて、すこしも意欲が衰えなければ、今度は、たぶんなにかの縁で先方より幸運が舞い込むことだろう。
だが、プロとして出発するには際立った個性が必要となり、この個性というものがどんなしろものなのか、演技をしている当人には とんと わからないものであり、これを掘り出すのは第三者なのだ。
自己満足に陥って、自信過剰のままマスコミ界へ飛び込むと袋だたきにあって、都落ちとなる。芸能界は予想以上にきびしい世界でもある。 」
この後にはプロになるための道筋が二つ紹介されている。
ただ、やはりプロの世界の厳しさを伝えて安易にプロになろうと考えるのではないよ、と戒めている。一流のプロが入門書のマジック解説書でこういう事を書くことはあまりないのではないだろうか。
マジックを演じることの楽しさや憧れを十分に刺激しつつも、このようにプロの世界、芸能世界の厳しさも伝わってくる。
当時何も知識の無かった僕にプロのマジックや心構えまでも教えてくれた素晴らしい一冊でした。今でもマジックを演じる人すべてに読んでほしい本です。
厳しい世界でも最高のプロでありつづけたマジシャン、北見マキさん。
僕のマジックを育ててくれたと言っても決して過言ではない、このような貴重な本を出版してくださったことに感謝しております。

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